「本庄さんっ!」

「あぁ?」

「煙草吸いすぎですっ!」

天気のいい縁側で、新聞を読みながら煙草を吸っていた本庄さんの口からそれを奪う。

「わんこそばじゃないんですから、いい加減止めて下さい」

「そんなもん、俺の勝手だろう」

奪った煙草を灰皿に押し付けて、吸殻の山となった灰皿を突きつける。

「副流煙であたしが早死にしたらどうしてくれるんですか!!」

煙草は吸ってる人よりも、周りの人への影響が大きいんだぞ!

暇があれば本庄さんとこに遊びに来てるあたしの前で、すぱすぱ際限なく吸いおって…このままじゃ肺だけじゃなく、心まで黒くなってしまうじゃないか!
いらいらしつつも、灰が風で飛びそうになったので灰皿を引っ込める。

「おい」

「…なに?」

無言で隣に座るよう指示され、それに逆らっても無駄だと理解しているので言われたとおり座る。
すると、またもや煙草に火をつけた本庄さんは、その煙を空へとくゆらせながら呟いた。

「…安心しろ」

「?」

「早死にした場合は、寿命だ」

その優しい声音に一瞬期待した…あたしが、馬鹿だった。
ぶっちーんと音を立てて、何度切れたか分からない堪忍袋の緒がまたもや切れた。

「あっそう!それじゃあ、本庄さん残してとっとと死んじゃうかもね!」

「ほぉ」

「あたしはぴっちぴちの若くて綺麗なまま死ぬけれど、本庄さんはよぼよぼのおじいちゃんになって、たった一人で寂しい老後を迎えるんだ!うわー、可哀想っ!!



…死んでからに綺麗も若いもないだろう。



自分の中でそんなツッコミをさり気なくしつつ、ビシッと本庄さんへ指を突きつける。

「それでもいいなら吸い続けるがいいさ!」

こんなことで効果があるとは思わないけど、言ってしまったらもう止まらない。
仁王立ちで片手を腰に指を突きつけた状態のあたしに、いつも以上に意地悪な顔をした本庄さんがニヤリと笑った。

「じゃ、お前が死んだら、俺は他のやつのものだな」

「は?」

「お前が若いまま死ぬということは、俺もそれなりの年だろう。ま、その頃ならまだ引く手数多だな」

「え、あの…」

「そうだな…今度はお前とは違うタイプの女にしてみるか」

「い、嫌ですっ!!

気づけば、縋りつくような勢いで本庄さんの襟首をぐいっと掴んでいた。

「本庄さんは、誰にも渡しませんっ!!」



…ついさっきまでの強気な自分はどこへやら



あぁ、こうしてまた…この人に、からかわれるんだ。

「んじゃ、しっかり掴んどけ」

気づけば煙草は本庄さんの足元に落ちていて、その目はまっすぐあたしを見てくれている。

「冗談でも死ぬとか言うな」

「…う、ん」

「お前はそんな簡単に死ぬようなやつじゃないだろう」

「…それもどうだろう」

「まぁ真紀ほどではないがな」

「それ、真紀ちゃんに失礼…」

耐え切れなくなってくすくす笑い出せば、頬に手が添えられ撫でられた。

「俺が選んだのはお前だ」

「うん…」

「…目、つぶれ」



いっつも命令口調なんだから…

でも、丁寧口調で営業してる本庄さんより…
あたしが好きなのは、今の…普段のあなた



背中に温かい太陽の日差しを浴びながら、唇に感じるのは少し苦い…煙草味のキス

「ん……っ!!!

頬にあった手が首筋から下がりだした事に気付き、襟首を掴んでた手で本庄さんの肩を押し返す。

「と、ところ構わず触るなっ!!」

「ちっ…」

足元に落ちている煙草を拾い上げると、灰皿を探してきょろきょろ周囲を見回している。
少し動けば手の届くところにあるっていうのに…このものぐさめ!…なんて思いながらも、いつもあたしは灰皿を渡してしまう。

「…はい」

「おぉ」

「…ね、本庄さん」

「なんだ」

「タバコが変わると、キスも変わる?」

「試してみるか?」

「本庄さんが長生きしてくれるなら…試してくれてもいいよ?」

「…お前次第だろう」

そうしてまた、手招きされて、あたしはそれに答える。





あたしが知っているのは、タバコ味のキスだけ。
きっとこれからも…それ以外、知ることはないだろう。





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扇子ちゃんの魂千本ノックを受ける覚悟で書きました。
というより、半分扇子ちゃんが混じってる気がしてなりません。
初めて縁側で寝てる本庄さんとこでの会話を思い出しながら書いたら、こうなりました。
大半の予想を覆したかったので、考えました。
えぇ、物凄く。
でも書き終えてから気づきました…もう少し書きやすい所にタバコを吸うキャラがいたことを。
す、すまない…ラブリー久保田(苦笑)
ところで、実際のところタバコ味のキスってどんななんですか?
…なんて聞いたとこで、本気で答えられたら…どうしましょ(笑)
その時は伏字でひっそりこっそり、ネタに使います(どきっぱり)